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湯治 [SS]

 本日の妄想:イルカ先生の趣味について、掘り下げて考えてみました

 

随分とご無沙汰しまくりで 申し訳ございません!!!
毎日毎日、へとへとでございました;;
が 夏休みもあと10日を切り、漸くこのしんどさの出口が見えてきましたよ(嬉)

というわけで、久々の更新です。
お楽しみいただければ嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

               ― 湯治 ―

 

「え? なんて?」

思わず耳を疑ってしまう。
私の眉は八の字の困った形になっているんだろう。
イルカさんが、解らん奴っちゃなー という顔で大きく息を吸う。

「今から温泉へ行こう って言ったんだ。 お互い夜勤の待機も解けたことだし」
「…ふ~ん」
「なんだ? その気のない返事は」
「だって、こんなに暑いのに」

木陰のベンチで唇を尖らす私の頭にぽんと手を置いたイルカさんが、すっくと立ち上がる。
三歩進んで日向に出たイルカさんは腰に手を当てて、入道雲を見上げた。
厳しい日差しがイルカさんの肌を焼く。
腕まくりした袖口で額宛に滲む汗を拭うと、片目を瞑って私を見た。

「こんなに暑いから温泉へ行くんだよ。 ゆっくり湯に浸かってみな? 汗と一緒に疲れだとかヤなことだとか、色んなモンが流れて行くんだぜ。 冬だとそうはいかないからな」
「…へえ」
「へえって!」
「ウソウソ。 行きましょ、温泉へ」

私も立ち上がってイルカさんに腕を絡めた。
イルカさんの言うことに間違いはない とは言い切れないかもしれないけれど、
お付き合いする以前からも、イルカさんの提案やアドバイスはほぼ正しい。
だからイルカさんの言葉を信じて、この夏の色んなモノをデトックスしてみようじゃないの。

「タオルなんて借りりゃいい。 着替えだって心配するな、売店で売ってるんだから」
にこにこ顔のイルカさんが早口でそう言った後、私を急かす。
「だからすぐに発とう。時間が勿体無いよ。 早く着いて向こうでゆっくりしよう」


 

火の国中心部から特急列車に飛び乗って、西へ西へ、土の国との国境近くへ。

車中でのイルカさんは、お弁当を食べたり鼻歌を歌ったり、上機嫌だった。
飛ぶように過ぎてゆく車窓の景色を楽しんでいる。
アイス、早く売りに来ねえかな。 いくつでも買ってやるからな」
なんて、どや顔で言う。
余程、温泉で湯治が好きなんだろう。

あ、そういえば、イルカさんと温泉って今日で何度目?
趣味というだけあって、二人の時間が合って予定がない日の行き先は、大抵が温泉だ。
お肌がつるつるになるし、何よりリラックスできるからいいんだけど、
どうしてイルカさんはこんなにも温泉が好きなんだろうと思う。
眼を閉じた私はテンション高めのイルカさんに頭を預けて、列車に揺られながら
ぼんやりとそんな事を思っていた。

 

 

予想していた通り、温泉宿は混雑していなかった。
平日の所為もあるのか、熟年夫婦やOLさんと思しきグループがちらほらと居る程度で、夏休みだというのに賑やかなファミリー客は殆どいなかった。
それに、目立たぬように振舞う傷ついた忍達が数人。

「な? 穴場だろ?」
温泉だけ とロビーで告げたイルカさんがウインクを寄越すので、私はその腕に両手でそっと縋る。
「そうね、来て良かった」
語尾にハートマークがつくほど甘い声で答えたら、イルカさんが少し赤くなって鼻疵をぽりっと掻いた。

「あ、ここ、イチ押しはでっかい露天風呂なんだ」
ロビーから続く廊下を歩きながら、イルカさんが言う。
私は頷きながら眉を上げて続きを促す。
「え、と、混浴…なんだけど?」
「…だろうと思った。 イルカさん、顔が赤いもの」
イルカさんの目が泳ぐのが面白い。
「か、構わねえか?」
「仕方ないじゃない。こんなに遠くまで来たんだから。話の種に入って帰りましょ?」
「そっか」
へへっと笑ったイルカさんがまた鼻疵を掻く。
私も少し笑って、少し前を歩くイルカさんの汗の滲んだうなじをみつめた。

 

掛かり湯のあと、青く茂った紅葉の枝が張り出したところへタオルで体を隠しつつ、そろそろと進む。
温泉へ行って日焼けなんて、ちょっと嫌だから。
既に離れた所で浸かっていたイルカさんが髪をもっと高い位置に結い直して、私に手を振った。
すぐに近くへ来たイルカさんに尋ねてみる。

「イルカさんて、どうしてこんなに湯治が好きなの?」
私の問いかけにイルカさんは少し睫を伏せた。
訊いちゃ不味いことを訊いてしまったんだろうか。
うーんと唸りながら伸びをしたイルカさんが首を回して大きく深呼吸した。
「気持ち良いだろ? 温泉って」
私は黙って頷いた。
頷きながらにっこり笑ってイルカさんをみつめると、イルカさんもにっこり笑う。
「それに…」
とイルカさんがお湯を掬いながら静かに続ける。
「父ちゃんも母ちゃんも忍だったろ? 夏休みだって他所の子達みたいになんとかランドとかに連れてってもらうことなんてねえ」
「そう…」
イルカさんが言いたいことが少しわかって思わず相槌を打つ。
「家族旅行らしいものは父ちゃんと母ちゃんの湯治にくっついて行くときだけだった。
湯治の数日間は忍であることを忘れてるみたいな父ちゃんと母ちゃんが好きだった。
風呂上りにコーヒー牛乳飲んだり温泉饅頭食ったりするのが楽しみだった。
命の危機がない普通の家庭みたいな…。
温泉はオレにとっちゃ数少ない大切な思い出だ。 特に夏の温泉はね」
掬ったお湯を顔に浴びせたイルカさんが、ああ と呻く。
「ああ、気持ちいいなあ」
と。


私は言葉を失った。
顔を洗ったのは滲んだ涙を隠したかったんだろうと思うと切なくて堪らない。
だから、大きく深呼吸した後、お湯の中でそっとイルカさんの脚に触れた。
イルカさんは何も言わずに私の手を握り返した。

お湯の中で手を繋いだまま見上げた紅葉の葉の裏側に、
傾きかけたお陽さまが眩しかった。

 

 

お風呂上りにコーヒー牛乳を飲んでいると仲居さんが跪く。
私ひとりでは判断しかねるので、眼を閉じてマッサージ器に横たわるイルカさんの方に振ってみた。

「お部屋は空いてございます。 お泊りになられますか?」
イルカさんに仲居さんが問う。
「よろしければ家族風呂もどうぞ。 無料でお使いいただけますよ」


イルカさんが顔を真っ赤にして、どうする?と問いた気に私を見る。

「明日、また夜勤だよな?」


 

ああ、もう、あんな話をされた後じゃあ、泊まるしかないじゃないの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


コメント(2) 

コメント 2

ねね




金鳳花さん こんにちは♪
ご来訪とコメントをありがとうございますv

そうそう!
水着着て入るプールみたいな温泉が流行ってますよね。
ジャンプ台や滑り台もあるの、TVで観ました。
ご想像の通り、イルカ先生が行った温泉は
ええ加減にリニューアルせえよ~と思うほどの
年季の入った温泉旅館♪
掃除は行き届いているし、仲居さんも感じがイイんだけど、
廊下がギシギシ鳴ったり、床の敷物がくたびれてるの(笑)
温泉、年がら年中入りたいですよね~v
大きなお風呂ってだけで、非日常♪
普段は見向きもしない卓球に燃えたりして(笑)
私も今年の秋には、温泉旅行へ行きたいなあvと思っています。

12号はそちらを向いてしまいましたね;
被害がありませんように…と祈るばかりです。
金鳳花さんも食料の備蓄など大変でしょう。
どうぞお気をつけて、お元気でお過ごしくださいませvv





by ねね (2011-08-30 17:04) 

ねね



ケイさん こんにちは♪
ご来訪とコメントをありがとうございましたv

うははv
「切なく色っぽい気配」とは!
めっちゃ嬉しいですvv
そうそう、イルカ先生の将来の家族旅行も温泉だよ、きっと(笑)
温泉大好き家族になるんでしょうね♪
夏休みって誰もが「あの日」に還りやすいのかもしれませんね…

いつもあたたかなコメントをありがとうございますv
ケイさんのお言葉は私にとって百人力です♪


by ねね (2011-09-05 20:53) 

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