So-net無料ブログ作成
検索選択

close [SS]

本日の妄想:イルカ先生は根っからの教育者。
だからって押し付けがましいガミガミ教師じゃありません。点数だけで判断しません。
勉学以外のとても大切な事を教えてくれます。
残念ながら今はそういう先生が少なくなりました(嘆)

題名はオープニングの曲から。
今更ですが初めて歌詞を眼で追いながら聴きました。
クリスマスプレゼントをあれくれこれくれ言う子供に、この歌しっかり聴けよと思いました。

 

 

      ― close

 

「ですけど、イルカ先生」
と、スズメ先生が銀縁の眼鏡をくいっと持ち上げた。

その挑むような口調が怖くて、私は息を詰めて二人を交互に見守る。
漫画でよくある、視線同志がバチバチと火花を散らしているシーンが実際に目前で繰り広げられていた。
どちらも真剣な顔で、どちらも一歩も退かない覚悟で、睨み合う。
ああ、怖い。
こんなに怖い職員会議は初めてだ。
腹式呼吸の練習の為に毎朝歌う「今月の歌」を決めるだけなのに。

「今年入ったばかりの年少組ですよ。今月の曲は昨年と同じ『あわてんぼうのサンタクロース』でいいじゃありませんか?」
「ええ、例年ならオレだってそう思います。ですが今年の年少組は全員裕福な家の子供たちです。今月にcloseを歌わせることに意味があると、オレは思います。ほんの少し外に目を向けて自分がどれほど恵まれているか感謝する心を学ぶ良い機会じゃあないですか?クリスマスだからこそです」
イルカ先生が凛とした声でそう言った。
そうか、それでこの歌をイルカ先生は推すんだわ。

「イルカ先生の意見も一理ありますな」
エビス先生が神経質そうに腕まくりを直しながら口を挟んだ。
「一説によると、人間が生きていく上で必要な衣食住を幸せの基準とした場合『雨露をしのげる屋根のある家に住む者』は世界の総人口の上位25%に入るそうです。尚且つ『冷蔵庫に食料がひとつでも入っている者』は上位5パーセントに入ると聞いたことがあります。そうすると我々が如何に恵まれているかわかりますな」
「そうなんですよ、エビス先生!」
イルカ先生はエビス先生の手を握らんばかりに勢いづいた。
なんだか少女漫画並みに瞳をキラキラさせるので、いつもよりハンサムに見えてドキドキした。
「当たり前だと思っていることは決して当たり前なんかじゃないということに気付くだけでいいんです」
「…自ずと感謝の気持ちが生まれるということですね」
先程までの厳しい表情から一転したスズメ先生がイルカ先生に微笑みかけている。
「解りました、イルカ先生。今月の歌はcloseに致しましょう」
「・・・・・ありがとうございます」
イルカ先生が深々と頭を下げた。

 


方向が同じだから、イルカ先生と肩を並べて冬の夜道を歩いて帰る。
いつもではないけれど、秋頃から時間が合うと一緒に帰るようになった。
時には一楽でラーメンを食べたりすることもある。
冬至が近づいているので秋に比べて随分と夜が来るのが早くなった。
急速に気温が下がっているのが吐く息の白さで解る。
耳も鼻もじんじんしてきた。
乾燥した風が吹き抜けると一層寒さが身に沁みる。
こんなに寒い夜に独りで帰らなくていいことが心から嬉しかった。
人通りは途絶えていて、街灯だけがぼんやりと行く先を照らしている。



「今日の職員会議、ちょっと怖かったです」
いつもと比べてイルカ先生の口数が少ないので、話を振ってみた。
「…そうか」
とイルカ先生がぽつんと答えた。
だけどそれきり何も言ってくれないので、イルカ先生をちらと見遣る。
イルカ先生の歩調が少し遅くなって、いつもは真直ぐ前を向いている顔が俯き加減に変わった。
なんだか気不味い。
こんな雰囲気は苦手だ。
何か言わないと…
「でも、イルカ先生の仰る意味がエビス先生の具体的なお話でよく解りました。数字にすると説得力ありますね。私も今月こそCloseを歌うに相応しいと思います。あ、ちょっと大袈裟ですね」
柄にもなく熱く語った事が恥ずかしくて、うふふと誤魔化し笑いを付け足した。
それでもイルカ先生は何も言ってくれないので困った私も俯き加減で黙って歩いた。
ああ、いろんな意味で寒い。

「もう3ヶ月になるな」
「え?」
独り言のようにそう言うので私は少し驚いてイルカ先生を見上げた。
「一緒に帰るようになって3ヶ月経つ」
「…あ、そう、そうですね。早いですね」
何を言い出すんだろうと不安になる。
憧れの先輩とこうして一緒に帰れることはとても嬉しい。
なのに始まりと同じように、この幸せを突然取り上げられるのかしら?
もしそうなら、私の日常は一気に味気ないものになってしまう。
隣に立って家路を辿る事が当たり前のようになってしまっていた。

私の家まであと少しの所でイルカ先生が立ち止まった。
私も立ち止まる。
今から何を告げられるのか息を呑んで待つ。
「気付いて。…オレの気持ちに気付いてくれてると思ってたんだが」
見る見るうちにイルカ先生の眉根が困ったように寄った。
言葉を捜しているのか舌がちろりと形の良い唇を塗らす。
ああ、私は今から何を言われるのだろう?
イルカ先生の気持ちってなんだろう?
私をうざいと思ってるの?
現にイルカ先生は私が会議の話をしてからずっと黙っている。
いつもはお喋りしながら笑い合っているのに。

「好きなんだ。時々一緒に帰るだけの同僚なんてもう真っ平だ。もっと距離を縮めたい。一番近くにいたい」
「イルカ先生…」
ああ。
ああ、どうしよう。
言葉が見つからない。
イルカ先生は耳まで真っ赤になって、会議の時以上に真剣な眼で私をみつめている。
一番近くにいたい。
私だってそうだ。
この気持ちが、尊敬し憧れている先輩教師に対するものだけではないことにはとうに気付いている。
ただその気持ちを封印していただけだった。
教師として一人前になるまでは、色恋なんてご法度だと思っているから。
「オレの事、どう思っているんだい?」
返事に困る。
大好きだと言って良いのだろうか?
未熟な半人前の教師なのに。
「言ってくれ。望みがないのなら、もう一緒に帰ろうなんて言わないから。他にも大勢キミを誘いたがってる奴がいるし…。それに意中の人がいるなら迷惑だろ?」
「そんな!」
胸が苦しい。
打ち明けてしまえば楽になる?
冷え切った私の手がイルカ先生の大きくて温かな手に包まれる。
心が少し、ほどけた。
口に出してしまえば、この閉塞感は拭われるだろう。
きっと今しか伝えるチャンスはない。
何も言わずにいたら、イルカ先生は言葉通り二度と私を誘ってくれなくなる。
静かに深呼吸したあと、意を決して口を開いた。
「私、イルカ先生と帰るのが楽しみです。それは一緒に居たいからだと思うの。私も好きです。大好き」
イルカ先生の手に力が加わった。
「…嬉しいな」
本当に嬉しそうにイルカ先生が微笑む。
寒さで赤くなった鼻にある疵をぽりっと掻いた。

今夜はこのまま別れたくないと思った。
想いが加速する。
告白することで、この3ヶ月、いや、正直に言うと教員試験を受ける前から心の奥に燈っていた小さな火に一気に酸素が注がれたようだった。
短い時間に必死で頭の中を整理する。
冷蔵庫には何が入ってた?
昨日半額だった地鶏のモモ肉。卵もある。
プランターに埋めた葱の根っこの先は食べれるほどに伸びている。
という事は、親子丼が作れる。
お豆腐も昨日買ったからお味噌汁もできる。
「もし…もしよかったら、家へ寄っていってください。親子丼ならできますから」
縋るような思いでそう言った。
イルカ先生は一瞬目を丸くして、一層嬉しそうに笑った。
「…ありがとう」
そう呟いたイルカ先生の鼻疵が近づく。
黒い大きな瞳にのぼせ上がった私が映っている。
が、すぐに睫毛が伏せられたのを見て、私も慌てて眼を閉じる。
遠慮気味に冷たい唇が触れた。
膝ががくがく震えて失神しそうだった。

手を繋いで、私の家へ向かう。
イルカ先生に一番近い人に相応しく、早く一人前の教師にならなくちゃと思った。
とりあえず、closeを早く歌えるようになろう。

 

 

 

 

 

 

 

新しい歌が覚え難いお年頃になってしまいました;;
昭和歌謡が好きです♪

 



 



 

 

 

 

 



 


コメント(2) 

コメント 2

ねね



あっきいさん こんにちは♪
ご来訪とコメントをありがとうございますv

今の先生って大変そうですね。
躾など家庭でするべきことまで押し付けられてるようで;;
先生運ってありますよね?
私は先生運が良かったと思います。
相性だといえばそれきりですが、これって割りとシビアな問題ですよ。
大袈裟ですが人生が左右される場合もあるかもしれません。否あったな、私の場合(笑)
二人の子供も今のところハズレは1回だけです。
ハズレはそれきりにして~と毎年春に祈ります(笑)

イルカ先生、水族館の匂いだったらちょっとやだなあ;だって金魚鉢でしょ?;;(苦笑)
拙ブログでの融通の利かない堅物イルカ先生を好きだと言ってくださってありがとうございます♪
イルカ先生に代わってお礼申し上げますvv




by ねね (2008-12-11 15:34) 

ねね



緋桜さん こんにちは♪
ご来訪とコメントをありがとうございますv

これだけ経済が悪くなってしまったこの国に例にあげた2項目をクリアできない人が多く居る事に、高度経済と共に育った私は恐怖を感じます。
この閉塞感、まさにclose…
頑張ったら頑張るだけイイことがあると信じられたあの時代を懐かしんでも仕方ないのですが、あの頃の歌はやはり大好きです♪

そうそう!別にファンだったワケでもないのにスラスラ歌えちゃったりするの(爆笑)
そんだけ流行ったってことかな~ 
ていうか記憶力が今よりずっと良かったんかな~(笑)


親子丼とお豆腐のお味噌汁で、今夜は温まってくださいねvv







by ねね (2008-12-11 15:45) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。