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空蝉 [SS]

「そうめん」の続き イルカ視点です。

イルカ先生、脱皮なるか!?

 

 

 

        ― 空蝉 ―

 

彼女の瞳の翳りに気づかなかったわけじゃない。
頑なに送らなくてもいいなんて言うのも気にかかっていた。
無理強いするのは性に合わないから諦めて、儚げな背中を立ち竦んで、ただ見送った。
だけど部屋に戻って、今まで彼女の居た場所をぼんやりと眺めているうちに
やはり今夜は送るべきだと考え直して、走って後を追った。


繋いだ手は温かい。
オレの名前を呼ぶ声にも変わらぬ情がこもっている。
他愛の無い話をしながら歩く。
でも、何かが違う。
彼女が消えちまいそうで、不安で堪らない。

この感覚は数週間前からのものだ。

「……なにかあったのかい?」
彼女が住むマンションの前に着いた時、尋ねてみた。
「別に…何も」
揺らいだ視線に前髪がかかる。
「…元気ねえぞ」
「そんなこと…。暑いから、軽い夏バテよ」
オレを見上げてにっこり微笑むと、送ってくれてありがとうと彼女は言った。
直後、その眼差しがオレを飛び越して少し先を見つめている。
振り返ると、マンションの植え込み近くの洒落た鉢に白い大輪の華が咲いている。
「咲いたんだわ」
彼女はこの時を待ち望んでいたように、うっとりとそう言った。
「月下美人か…一夜限りの花だろ?」
彼女は頷いて、鉢の傍まで行って覗き込んだ。
「楽しみにしてたの。花の命は短いのよ。見れてよかったわ」

チャクラが乱れているのを感じる。
オレは、彼女の腰に手を回してそっと引き寄せた。
いつもなら恥じらいながらも身を委ねるのに、制止するようにオレの胸にやんわりと掌を合わせる。
予想していた通りの反応だったが、やはり動揺し狼狽してしまう。
「何かあったんだろ?話してくれよ。ワケ解んねえよ…」
オレは情けない声でそう言って、彼女の顔を覗き込んだ。
その瞳の翳りが濃くなっている。
腕の中に居る彼女は弱々しく、遠くに思えた。
愛おしくて、護ってやりたくて、頬にキスをして、呟いた。
「・・・・なあ・・・遠くへいくなよ」
彼女が息を呑むのが解った。
オレの腕に縋るように掴まって、やっとのことで立ってるような感じだった。

お見合い、させられるかも」

オレは絶句した。
文字通り言葉が出ない。
彼女は健康で別嬪でチャーミングで、それこそ引く手数多な年頃の一般人の女性だ。
周りの人間が放っておく訳がない。
今までその手の話が無かったのが不思議なほどだ。

「でも、私はイルカさんが好きだから」

その言葉が胸の奥深いところを揺るがす。
愛おしさに、いてもたってもいられない。
何も言わず、身を屈めて頬を摺り寄せて力いっぱい抱きしめた。
彼女もオレの背中に手を回してぎゅうぎゅうしがみ付いてくる。
甘い香りに本能が騒ぎ出す。
「部屋、入れてくれるかい?」
彼女の耳を甘噛みしながら耳元で囁いた。
「…だめ、今夜は」
オレは冷水を浴びたように体から血の気が引いていくのを感じた。
「ごめんね、送ってくれてありがとう。おやすみなさい」
彼女はそう言うと、振り向きも手を振ることもせず、建物の中へ入って行った。
オレはぽつんと独り残された。



悶々としたまま足早に自宅を目指す。
なんてことだ。
このままじゃ、近いうちに彼女を失う。
考えろ! 考えろ! 考えろ!
どうすればいい? オレが成すべきことは?

冷たいシャワーを浴びて頭と股間を冷やす。
付き合い始めて1年近く、深い関係になって半年足らず…
一緒に居て楽しいだけじゃ駄目なことには、ずっと前から気付いていた。
解っていたんだ。
時が来ればきちんとする心算だった。
でもそれって、いつする心算だったんだろう?
彼女はずっと悩んでいたんじゃないだろうか?
逢えたり逢えなかったり、すれ違いばかりで、
可哀想に、先の見えない付き合いに不安だったんじゃないだろうか?
蛇口を閉めて、涙のように滴る雫が排水溝に流れていくのを眺める。
オレの知らないところで、彼女は泣いてたんだろう。
バスタブに浸かって独りで泣いてたんだろう。
不器用だからとか、そんなの言い訳にもなりゃしない。
―― All or Nothing
二者択一しか道はねえだろうよ・・・・・
ただ、オレが彼女の魅力に見合う器の男かどうか。
誰よりも愛してるっていう自信だけはある。これは断言できる。
幸せにしてやれる自信はと言われるとこんな生業だから断言できないけど、
彼女と居るオレは幸せになれると大声で言えるほど自信がある。
収入は…うん、任務、増やして貰おう。
新居は、そうだな……中古物件ならなんとかなるだろう。



 

殆ど眠れないまま迎えた朝、走るアカデミー生たちがオレを追い越して行く。
「おはよう!イルカ先生っ」
「イルカ先生おはようございます」
「おう、おはよう。元気だな」
「イルカ先生、これ見つけたの。あげるね」
モエギの小さな掌には、蝉の抜け殻がひとつ乗っていた。
「エヘッ、蝉って凄いよね~、先生知ってる?」
「ん…あ、何が?」
「蝉の一生のことよ。何年も土の中で過ごして、やっと出てきて脱皮して。
でも1週間くらいしか生きられないのよね」
「あ、ああ、そうだな」
「あたし、蝉じゃなくてよかった~」
そう言うと、モエギは笑いながら走って行った。

 

そうだ。
花の命は短い。

動悸が早まる。
彼女の休日に合わせてなんとしても休みをもぎ取らねば!
挨拶の時、何を着ていこう?
忍服のままじゃ流石に駄目だよな、やっぱスーツだろう。
おとうさんは厳しいって言ってたもんな。
手土産は上等な甘味が無難でいいのかな……
月並みだけど「お嬢さんをください」か、いや、そんなの古すぎるな。
ああ、しっかりしろ、オレ!

 

―― 空蝉がオレを急かす。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとり盛り上がるイルカ先生(笑)
一番肝心な彼女の意思の確認をすっかり忘れています。
ヌケたところもあるイルカ先生を愛してやってください(爆)

 

 

 

 


コメント(3) 
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コメント 3

ねね


ケイさん いらっしゃいませ~♪
コメントをありがとうございます。

面白かった?
あはは、ちょっとイルカイビリをしてみました(笑)
結果、テンション上がり過ぎて、彼女へのプロポーズはそっちのけで
両親に挨拶することに気がイッテます。
1巻のイルカ先生ならこんな感じかな…と(←初期のイルカ好き:笑)
そんなイルカ先生を可愛いといってくださって嬉しい~vv
WJ30号のイルカ先生なら「月下美人よりキミの方が美しい」などと歯が浮くようなこと言いそうです。 そんなのイルカ的にノン!です(爆)

ケイさんちも!?ウチもよ!
言わなくてもわかってると思ってたとか言うたんですよ、我が夫は!
漢たるもの、わかってても言ってくれないとねー! 
でも、あまりの展開の速さに目を白黒させそうですね、このヒロイン(笑)
ビバ!イルカマジック!←なんのこっちゃ?

太鼓判をありがとうございます。
いつもくださる勿体無いお言葉に胸を熱くしております。
本当にありがとう~vv ケイさん、大好きだーっ!!




by ねね (2008-07-15 15:09) 

ねね


あっきいさん こんにちは♪
コメントありがとうございます。

ブラボー!あっきいさん、積極的~!
ご主人様は男冥利に尽きますね(笑)

リアルイルカ・・・・・売ってたら買い占めたるっ!!
土曜の8時の熱血高校教師・野球部顧問先生に
脳内で鼻疵とちょんまげつけて観ています(笑)
思い切り邪な眼でねっとり視ています(爆)
もうすぐ最終回なのでとても残念です;;
あっきいさんも今のうちに、ねっとりイットイテください(笑)





by ねね (2008-07-16 14:15) 

ねね


緋桜さん こんにちは いらっしゃいませ♪
コメントをありがとうございますv

大焦り中忍イルカ先生に乾杯してくださってありがとう!ルネッサ~ンス♪
コレがもし特上以上なら余裕なんだろなと妄想しています(爆)
「コラ!余所見しようとてんじゃねえよ」とか「ナニ心配してんの、俺しかいないでショ?」とか… 緋桜さんなら口調で誰かわかりますよね~(笑)

空蝉ーうつせみ 
蝉の抜け殻をこんな風に呼んだ先人は素晴らしいですね。
散りゆく儚きものへの憂いを愛する日本人ならではの発想だと思います。
語彙が豊富なんてとんでもない!
実生活ではぶわーっとかびよーんとか擬音ばっかりの会話です(苦笑)

本日も勿体無いお言葉をありがとうございます。
毎日暑いですが、どうか、ご自愛のほどvv



by ねね (2008-07-17 14:59) 

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