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生業 [SS]

08イルカ先生誕生日記念第一弾

本日の妄想:イルカ先生は稀に自分の生業に悩む 
そこが人間臭くていいんですけどね
の駄文です。ヒロインは一般人

 

                ―生業―

 

全然連絡くれないから、腹が立って、初めて家まで押しかけたら留守だった。
締め切った部屋の空気は淀んでいて、キッチンのシンクも布巾もカラカラに乾いていた。
冷蔵庫の中のミルクの賞味期限は1週間前に切れている。
きっと卵もちくわも、食べたら怖いことになるんだろう。
鍵を預かっていてよかった、もう何日も留守なんだわ。
なんだか、腹を立ててた自分に腹が立ってきた。
腕まくりして、この怒りを家事に込めることにした。

薫風に糊を効かせたシーツがはためく。
お風呂場からカビ取り独特の匂いが漂う。
雑巾をきゅっと絞ってバケツを片付けたら、買い物へ行こう。
何か作って、冷凍しておこう。

煮物が早く冷めないと、帰るのが夜中になっちゃうわ
と思っていると、ドアが大きな音を立てて開いた。
飛び上がるほど吃驚して、慌てて迎えに出たけど、声が出なかった。

「なんだ、来てたのか…」
低い声でそう言ったイルカさんの眼に残忍な光が宿っている。
泥と血にまみれて汚れた険しい表情に、心が凍りついた。
それに、酷く臭う。
生臭いような、キナ臭いような。
こんなイルカさんを見るのは初めてだ。
「…うん、勝手にごめん」
そう答えるのが精一杯で、あたふたとお風呂の用意をした。
入浴剤を倍ほど入れて。

今日は帰ろう。
早く帰ろう。
煮物、まだ冷めてないけど、この際どうでもいいわ。
炊飯早炊きコースのスイッチを入れて、食卓を整えて、走り書きする。

        『任務、お疲れさまでした』

あとの言葉が続かない。なんて書けばいい?
あんなイルカさんは怖いと思う。
いつも穏やかなのに。
いつも清潔なのに。
いつも笑ってるのに。
私の知ってるイルカさんと今日のイルカさんが違いすぎて、混乱する。
ペンを握り締めて、その先を考えてると涙が滲んできたけど・・・・・
・・・・・・違うでしょ?
だって、イルカさんは忍者だもの。
あんな姿で帰って来るのが、本当は当たり前なんじゃないの。
ご清潔な忍者なんている筈ないじゃない。

        『任務、お疲れさまでした。
        お誕生日おめでとうございます。
        貴方が大好きでとても大切です』

ポタリと  涙が雫になって落ちたとき、イルカさんが急に背後に現れた。
入浴剤の匂いに包まれて、身動きできない。
背中にイルカさんの鼓動を感じる。
涙がポタポタ落ちてくる。
私の身体に回された腕に力がこもる。
「怖がらせたね。ごめんな」
さっきとは違う、いつものトーンでやさしくそう言った。
私は首を横に振る。
言いたい事はいっぱいあるのに、言葉にならない。
 ―― 危険な任務だったんでしょう? 無事に還ってきてくれて嬉しい 
     どれほど愛していて大切なのかよくわかった
     絶対に失いたくない この先もずっと誕生日をお祝いしたい ――
お腹に回された手を取って、掌に口づけた。
「オレの手は、汚れてるよ」
私はまた首を横に振る。
「人を殺めて、子供に殺め方を教えてる」
もう一度口づけて、無骨な手に頬ずりする。
こんなに温かい優しい手だもの。
「・・・ごめん、こんなオレで」
イルカさんがもう一度謝った。
謝らなくていいのに。
謝る必要などないのに。
止めようと思えば思うほど、嗚咽が酷くなる。
イルカさんの手を握り締めたまま、子供のようにしゃくりあげてしまう。
みっともない。
イルカさんがタオルで顔を拭いてくれた。
小さな子をあやすように、私が泣き止むまで抱いて揺すってくれた。


「ひっでえ顔」
暫くして、私の顔を覗き込むイルカさんの眼は、いつものように澄んでいた。
「なんだってどうだって、私、イルカさんのこと、大好きだからね。全部ひっくるめて大好きだから」
身体を反転させて、その広い胸にダイブした。
心臓の音が聞こえる。
貴方が生まれてきてくれて嬉しい。
こうして、元気に還ってきてくれて嬉しい。
どうか、どうか、絶えることなくこの音が聞こえますように とそっと祈った。

「そ、そんな事言ったら、もう帰さないぞ」
「いーよ。今日はイルカさんの誕生日だもん」
自分から言い出した癖に、照れたのかイルカさんは、急に難しい顔をして濡れた髪を括った。
「もう、ずっと帰さないかも知れないぞ」

覚悟はできたわ。
忍者の嫁にだって何にだってなってみせる。

 

 

 






         

 

 





 


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