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恋しぐれ [捧げ物]

捧げ夢「深爪」の続きで、つい最近差し上げたものです。

なんですかねえ~・・・・・・・・
お付き合いを始めて3,4ヶ月過ぎたあたりの
ドキドキ感というかソワソワ感というか、嬉しいんだけど不安な感じ
あの乙女心が懐かしい今日この頃であります(笑)

 

 

 

      ― 恋しぐれ ―

 


ユメは最近、事の発端となった自分の指先を見つめては、溜息を吐いている。
スクエア型に切り揃えられ、淡い桜色に染められた爪。
嘗てイルカが口に含んだ爪をじっと見つめる。

 

同僚との宴会とは違った雰囲気の居酒屋で、
イルカと二人きりで食事をしてから、早や数ヶ月。
それからは、月に2,3度くらい「晩飯一緒にどうですか?」と誘われていた。
アカデミーの資料や課題を手に、お互いの家を行き来する休日も数回あった。

ユメの気持ちは、もう抑えきれないほどまで大きくなってきている。
人混みを縫って歩く時に繋ぐ手とか、稀に肩や腰に回される事がある腕や、
戯れにかき乱される髪などに、何か特別な意味が含まれているといいのに…とユメはそっと願う。
その乙女心の大半を、イルカの存在が埋めていた。
お気に入りのオトコマエ俳優主演の映画すら見逃すほどに。

周りの人々は二人が付き合っているものとして見ていた。
でもそれって事実なのかしら? 少しだけ仲の良い同僚じゃないのかしら?
と、当のユメはいぶかしく思うことがある。

 

 

例えば昨夜のこと。

マダムシジミの御母堂が、イルカを贔屓にしているのは周知の事実だ。
何かにつけてイルカを指名しては、チップを弾んでいるらしい。
それだけならまだいい。相手は高齢だ。間違いが起こることはないだろう。
問題は、マダムシジミの姪であるその孫娘。
二十になったばかりのウニというその娘は、奔放なことで有名だった。
昨夜の花見の宴で、酔ったウニはイルカに絡み、抱きついたという。
挙句の果てに横抱きで、大名御用達の高級旅館まで送らせた。
その様子を、残業帰りのユメが偶然、見てしまった。

桜吹雪の中 イルカの項に回されたウニの腕 見つめ合う瞳と瞳 
イルカの髪についた桜の花びらを指先で摘まんでは、紅い唇で意味有り気に吹き飛ばすウニ


ユメは知らぬ顔をして家に戻る気には、到底なれなかった。
戦忍としての経験が多いほうではないユメだが、此処は忍者らしく忍んで様子を伺うことにした。

姿を現さずに警護にあたる暗部の内の一人が、笑いを堪えながらそんなユメを眺めていた。
暫く静観していた暗部だったが、ユメが必要以上に忍者らしく振舞う滑稽さに堪えきれず、
「何しとんねん!?」とユメの後頭部に思い切りツッコミを入れた。
ウニを抱いたまま旅館の門をくぐるイルカに気を取られつつ、ユメはあたふたと言い訳をした。
「ごめんなさい! すぐに帰りますから、見逃してくださいっ!」
木の葉が誇る暗部相手に、見逃すもないだろうとユメは自分でも呆れた。
狸の面の奥の鋭い瞳に、面白がっているような笑みが混じっている。
暗部を振り切れる筈など無い事を承知の上で、踵を返したユメは木々の間を跳んだ。

お姫様抱っこは、きっと任務だ ただの任務 
自分にそう言い聞かせながら、ユメは速度を上げて、歯を喰いしばる。
舌を上顎に密着させて息を止めた。
泣くもんか 泣くもんか 絶対に泣くもんか
次に踏むべき枝が、滲んだ涙で見えない。
落下するユメを先程の暗部が救い上げた。
「逃げんでいい、不問にするから。気をつけて帰れ」
狸の面の暗部はそう言い残すと瞬身で消えた。
残されたユメは、穴があったら入りたい気分のまま、全力疾走で家路についた。

 

 

そしてまた、ユメは今日も、淡い桜色に染めた爪を見つめて溜息を吐いた。
この指先を…とあの夜の事を思い出す。
この指先をイルカは吸った。
温かく濡れた舌で包み込み、絶妙なストロークで吸い上げて、深爪を治そうとしてくれた。
指先にそっと唇を寄せる。
ああ、イルカ先生は……とユメは想った。

 

この冬、木の葉は20年ぶりという厳しい寒さに見舞われた。
人は皆、春が来るのが待ち遠しかった。
イルカもユメも然り。
一緒に花見をしようと楽しみにしていたが、桜の開花は例年より遅く、
開花と同時にイルカは里外任務に就いてしまった。
1週間後、戻ってくるのを待っていたかのように、大名主催の花見の宴にイルカが
呼びつけられたのだった。

イルカが吸った同じ指に舌先を当てながら、ユメは逡巡する。

イルカ先生にお姫様抱っこして貰えるなんて、どんな気分だろう? 
あの後、高級旅館で、イルカ先生はどうなったんだろう?
すぐに開放してもらえたんだろうか?
言い寄られたんじゃないんだろうか?
おやすみのキスを強請られただろうか?
最悪の場合、伽を言いつけられて了承してしまったりしてないだろうか?
いや、もっともっと最悪な場合もある。
大名の孫娘だもの、権力を振りかざして婿養子に、なんて話にでもなったりしたら……


「ああ、そんなの嫌だわ、イルカ先生」
「何が?」
「ひゃあああー!? イルカ先生、いっ、いつの間に!?」
受付業務を終えたイルカが困った顔で、ユメの顔を覗き込んでいる。
「ユメ先生、オレの何が嫌なんですか?」
「いえ、違うんです。何もありません。本当に何もないんです。なんにもなかったですよね?」
「えっ?」
「あっ…え、あ、私…すみません。お先に失礼します」
ユメは混乱する頭に冷静になれと言い聞かせながら、急いで職員室を後にした。
昨日から逃げてばかりだと、ユメは情けなくて泣きそうだった。
イルカはそんなユメの後姿に眉根を寄せると、ロッカールームへ急いだ。

 

 

外は今にも降り出しそうな曇天で、冷たい風が強く吹いていた。
『今夜は花散らしの雨になるわ』 
ユメは桜並木に差し掛かると走るのを止めて、空を見上げてそう思った。
自分の想いも桜と一緒に散ってしまうんだろうと思うと、また涙が滲んできた。
涙が零れないように、上向きで瞬きを我慢して、ユメはゆっくりと歩いて考えた。

イルカ先生は、大名の親戚にお婿に行くかもしれない。多分行くんだろう。
ふと思いついた最悪の事態の妄想が、突然現実味を帯びて来た。
イルカ先生を好きで好きでたまらない。
告白はしていない。されてもいない。
この乙女の恋心は、胸の奥でこのまま化石になるがいい。
泣くもんか 泣いたりなんてするもんか

ポツポツと春にしては大粒の雨が、ユメの額を叩いた。

 


「上向いて歩いてると転んじまいますよ」
声に笑みを顰めたイルカが背後から傘を差し出した。
「傘、無いんだろ? 送って行きます」
吃驚して見上げるユメにイルカは溌剌とした声で言った。
「少し話したかったし…」
イルカはそう言うと、真剣な眼差しになって唇を引き締めた。

「花見、したかったのになあ。残念です」
イルカは散り行く桜を眺めながら言った。
ユメは返事が出来なかった。
悪い妄想ばかりがぐるぐると浮かぶ。
『二人で会うのはこれきりにしよう なぜならオレは大名の親戚にお婿に行くから』
次の角を曲がるとそう云われるだろう 
でもイルカ先生は優しいから云い出し難いんだろう とユメは思った。
それならいっそ…と自分から口火を切った。

「昨夜のお花見の警護任務、大変だったんですってね?」
イルカはいつもの調子であははと笑った。
「ウニ様、御母堂様の孫様なんですが、酔っちまったんですよ。若い女性が酔い潰れるのってアレだな、
ちょっとキツイなあって話してたら、そんな事言い出すのはもうオジサンだって、後輩に言われちまい
ましたよ」
イルカの口からウニの名前を聞くことに、ユメの心は凍えた。

雨は激しくなり、冷たい風が少しづつ体温を奪っていく。
固くなったユメの肩にそっとイルカの腕が回された。
「花冷えだな」
低く優しい声でイルカが呟いた。
イルカの身体はとても温かく、ユメは心地良かった。
こんなに近くでイルカの声を聞き、体温を感じられるのは今日が最後かもしれないとユメは思った。
伏せていた視線をイルカに注ぐとイルカもじっとユメを見つめた。

「あっ」
「え?」
「睫毛が」
イルカはユメの頬についていた睫毛を指でそっと摘んで見せた。
「やだ、抜けてましたか?勿体無い」
ユメはうふふと笑いながら、イルカの指先にある、長くカールした自分の睫毛を見た。
「願い事、してごらん」
おまじないだからダメ元 でもどうせなら と ユメは眼を閉じて心の中で念じた。
『イルカ先生とお花見がしたい 叶いっこないけどいつかお姫様抱っこも 
あと、イルカ先生が幸せになりますように』
「…しました」
「じゃあ…」
イルカが唇を丸めて息を吹きかけると、ユメの睫毛は散っていく桜と共に風に乗った。
なにもかもが自分を象徴しているようだと思い、また涙が出そうになった。

 

 

その公園を抜けるとすぐにユメの家という所で、イルカはユメに向き直った。
「オレこれから任務なんです。少しだけ話したいんですが」
じゃあ上がってくださいというユメにイルカは首を横に振り、傍にある東屋に視線を移した。
畳んだ傘を柱に立てかける為にイルカが少し屈んだ。
湿気を含んだイルカの髪は、外灯の下でいつもよりしっとりと艶やかに見えた。


「オレの」
イルカはそう言ったきり、眉根を寄せて沈黙した。
言葉を捜しているようだった。
「オレの気持ち、伝わってないんじゃないかと心配で」
イルカが息を吸い込むのが分かった。
「昨夜、花見の任務が終わるとすぐに、暗部がオレんとこに来たんです。狸の面で訛りのある暗部です。
ユメ先生、泣いてたって。動揺して木から落っこちたって教えてくれました。……見てたんだね?」
ああ、あの暗部の人…とユメは顔が火照るのを感じた。

「ウニ様、若くてお綺麗な方ですね。イルカ先生とお似合いだと思いました」
狼狽を隠そうと口にしたユメの精一杯の言葉を、イルカは一笑した。
「やっぱり伝わってなかったか。よく聞いてください。オレ、ユメ先生が好きです」
あまりのストレートな物言いに、ユメは顔だけではなく全身が真っ赤に染まった。
「ウニ様のことは心配ないよ。抱いて送ったのも、任務の一部ですから」
イルカは穏やかにそう言うと、鼻疵をぽりっと掻いた。

「オレ、ユメ先生以外の女性を自分の家に入れたこと、無いです。メシだって、ユメ先生と食うのが
一番旨い。だけど、ユメ先生、ずっと敬語のままだし、オレの事イルカ先生って呼ぶし。あ、オレもそう
なんだけど… きちんと伝えた事がなかったから、無理もないよね? 不安にさせて悪かったです」
告白するイルカの頬も、見る見るうちに赤く染まっていった。
「ユメ先生のこと、本気で好きです」
ユメは瞬きも呼吸も忘れて、広がった瞳孔いっぱいにイルカを写していた。
激しくなった雨音さえ、自分の鼓動で掻き消されそうだった。
「ユメ先生もオレのこと好いてくれてると思って、いいんですよね?」
ユメの舌は喉の奥に引っ込んだままで、何も発音する事が出来なかった。
ただ、こくこくと頷くだけだった。

イルカが一歩、踏み出した。
小さな一歩だったが、二人にとっては大きな前進だった。
イルカはユメの肩を抱き寄せて、熱い手でユメの頬を包み、ぽろりと零れる涙を親指で拭った。
「泣かないで。昨日も今日もオレが泣かしたって自惚れちまうよ」
見つめ合い、そうなることが当然のように、唇が重なり合った。
「口、開けて…」
と囁くイルカが笑みを浮かべた。

その直後、火影邸へ向かう暗部が、しっかりと抱き合う二人を見つけた。
「郵便ポストの大と小か!?」というツッコミは、誰の耳にも届かなかった。
振り返っった暗部は、狸の面の下で微笑み独りごちた。
「〝恋しぐれ〟でんなあ」

 


10日後、春爛漫の陽気の中、二人は五分咲きの八重桜の花見に出かけた。
幾重にも重ねられた花弁の濃いピンクは、二人の気持ちを象徴しているようだった。
「オレって、シアワセ者だあ!」
お互いに持ち寄ったお弁当と酒を平らげた後、
イルカはユメの膝枕に耳を押し当てながらそう言った。
ユメは満ち足りた気分で、イルカの髪を撫でる自分の指先を見つめた。
おまじないって効くのもあるのね とそっと睫毛を伏せた。

 

それから約1ヶ月半後、里は新緑に包まれる。
勢い良く芽吹いた若葉が、薫風に揺れていた。
イルカの誕生日の夜――
ユメは、お姫様抱っこでイルカの寝室に運ばれたのだった。
ユメの睫毛と指先が悦びで震えた。
イルカを好きになって良かったと、心底思う夜だった。

 

 

 


コメント(3) 
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コメント 3

ねね

ケイさん ようこそいらっしゃいませ(お辞儀)

うへへっ イルカ先生大人の漢だも~ん(爆)
それにユメちゃんはガチンゴチンの緊張故、
歯を食いしばっての初キッスだったからね(笑)

わあ、末っ子タイプですか?
私自身は長女で弟二人の三兄弟だからか末っ子とか
一人っ子には昔から憧れてるんですよ~♪
愛されキャラっていうのかな?
自分には程遠いモノを求めてるのかも(笑)

ウットリしてもらえたなんて、最高に嬉しいです♪
こちらこそ、温かいコメントをありがとうございましたvv






by ねね (2008-04-25 12:57) 

ねね


金鳳花さん ようこそいらっしゃいませ(お辞儀)
「深爪」も読んでくださったのね。
ありがとうございますvv

私が書くイルカ先生はどんどん偽者になってゆく気がする今日この頃です。
だって、OPにチラッと出るのが不思議なくらい出番が無いんですもん(悲)
なので、脳内でどんどん素敵化しています(笑)
好きと仰ってくださって、嬉しいです♪
真っ赤になって告白する割りにはやることが大胆なイルカに萌えます(笑)
アハハ、色々想像してくださったの?どーぞどーぞ、お好きになさって!
捏造と妄想溢れる世界ですから(笑)

コメントをありがとうございました♪
お休みの日、ゆっくりお過ごしくださいましね~vv





by ねね (2008-04-26 13:37) 

ねね



あっきいさん いらっしゃいませー♪
こちらでは、はじめましてvv
かえでさんちから、翔んで来てくださったのね。
わざわざありがとうございます。

イルカ先生イイですよねー!ねーっ!!
あの漢らしさを布教すべくこのブログを始めたのです(←大袈裟)
手の匂い…あっきいさんたら、なかなかコアなこと仰るのね(笑)
イルカ先生の手は無骨だけど、爪の形が綺麗だと勝手に決め付けています。
匂いは…へらへらしちゃって妄想できなーい(笑)

本日はご来訪とコメントをありがとうございましたvv
by ねね (2008-06-01 15:08) 

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