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春雨 [SS]

本日の妄想:イルカ先生は晴れ男なのに以外と雨降りも好き
春のやさしい雨が好きそう 

 

 

      -春雨ー

 

昨日の爽やかな晴れが嘘のようなお天気。
決して大きくはない雨粒が次から次へと落ちてくる空は、他の季節の時よりも明るい。
さらさらと音がしそうなほど細い糸のような雨が降り注ぐ。
昨年、初めてイルカさんに話しかけた時もこんな天気の日だった。

 

図書室の引き戸を開けると奥の方の隅の席にイルカ先生がいるのが見えた。
真剣な眼差しにほんの少し笑みを湛えた口元、その間の高い鼻梁には横一文字の疵。
そっと近づいて、イルカ先生?と声をかける。
「・・はい、何か?」
結わえられた髪が揺れて、見上げてくる視線は真っ直ぐでどきりとしてしまう。
「お邪魔してすみません。臨時の会議だとエビス先生が」
「そうですか、わざわざ知らせに来てくださったんですね。すみません」
白い歯を見せてにっこり笑う。
なんて素敵に笑うひとなんだろう。
遠くから見ているときもずっとそう思っていたのだけど。
イルカ先生は立ち上がると、手にしていた分厚い資料のような物を名残惜しげにじっと見た後
パタンと音を立てて閉じた。
「直ぐに行きます」
「あ、私が戻しておきますので、イルカ先生は先にいらしてください」
イルカ先生は短く礼を言って図書室から出て行った。
後姿を見送ってから預かった資料を見遣る。
それは古いアカデミー生達の記録アルバムで、背表紙を見ると今から15年ほど前のもののようだった。
入学から卒業までの整列した記念写真イベントのスナップ写真。
それぞれに写っている者の氏名や場所、日時に簡単なコメントが載っている。
珍しくてパラパラ捲っていると入学式の集合写真に鼻疵のある少年を見つけた。
入学式には参列している親御さんも一緒に写るからきっと後ろのひとはご両親なのだろう。
イルカ先生にそっくりの眉と顎を持つ男性と柔らかな視線がそっくりの女性だった。
同じ色のテープの棚を見つけ出して元へ戻しながら、イルカ先生は此処で何をしてらしたんだろうと思う。

「で、あの時何してたの?イルカさん?」
あの日と同じようなやさしい雨の日、イルカさんの家でコーヒーを飲みながら寛いでいる。
昨年、初めて話しかけたときは緊張してドキドキしてたのに、
たった1年でこんなに近くに居られるようになるなんて 思ってもみなかった。
「あー、あの時なー、うーん」
恥ずかしそうに言うか言うまいか迷っているようだ。
「別にいいけどね、イルカさんがあそこに居てくれたから今、こうして居られるんだから」
私は笑って許してあげると言った。
知ってるよ、多分そうよね、イルカさんアルバムの中のご両親に会いに行ってたのよね。
初々しい新入生と心配そうな親御さんを見ていると誰だって自分の時の事を思い出してしまうもの。

 

   


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